2013年09月16日

オペラ研究家 岸純信さんのトスカ解説

本年11月22日(金)紀尾井ホールでのオペラ『トスカ』公演にむけて、作品の魅力を立体的にキャッチしていただくためにこのシリーズを作りました。公演まであと2ヶ月。出演者の皆様との稽古も始まります。またスポレッタ役に松浦健さんの出演が決まりました。松浦さんの出演でさらに舞台や芝居の奥行きに深みを増してくださることでしょう。

シリーズ『オペラの3つ扉』トスカ編
このシリーズは一つの作品にスポットを当て、「歴史」「哲学」「音楽」の観点から見て行くことでオペラを3Dメガネをつけて観るように、今まで知っていた作品がより鮮やかによりふくよかに見えてくることでしょう。
今回はオペラ『トスカ』の魅力を音楽的な面から道案内させていただこうと思います。
このシリーズではオペラ研究家の岸純信さんに素敵な解説を書いていただきました。

《トスカ》音楽的道案内   

 プッチーニの《トスカ》は激情の塊と呼びたいオペラ。「映画音楽の祖先」と看做されるほどにフレーズの一つ一つが臨場感に富み、スリルとサスペンスが客席を包み込む。一方、メロディの甘い潤いも特筆すべきもの。激しくドラマティックなシーンが続く中、恋人たちの〈愛の二重唱〉では、熱い語らいから瑞々しい生命感が滲み出る。劇中でほぼ唯一、二人が幸せに酔う名場面であろう。
さて、この《トスカ》を愛する皆様に、改めて申し上げたいことが一つある。
 それは劇中の3人の「来し方」について。オペラの台本には出てこない背景が、サルドゥの原作では詳しく語られる。まずは歌姫トスカ。彼女は実はまだ二十歳そこそこ。ヴェローナの野原を彷徨う孤児が修道女たちに拾われて育ち、声の良さを認められて歌劇場にデビューしたのは弱冠16歳の時である。それから4年で彼女はイタリア全土を制覇、ナポリ王妃の前で独唱できるほどのステイタスを得た。
 だからトスカは信心深く誇り高い。でも時には子供っぽくもある。恋人カヴァラドッシとの二重唱(第1幕)で、やきもちを焼き、「絵の中の女性の目は黒くしてね」と甘えるのも、彼女の娘らしさの表れなのだ。そして第2幕で警視総監スカルピアに迫られて、涙ながらに歌うアリア〈歌に生き、愛に生き〉も、彼女の前半生あればこそ。「私が生き延び、歌手になれたのも全ては神のお蔭!」と日々感謝してきたトスカだけに、こう訴えずにはいられない。「神様、どうしてこのようにお報いなさるのですか?」と。これまでのお恵みは一体何のためであったのでしょうかと、彼女は苦しみ悶えるのである。
そして第3幕では、スカルピアの言を鵜呑みにしたトスカが、恋人の無事を信じて疑わず、偽の処刑を見守る。しかし、彼は銃殺されていた。もはや歌姫は死ぬしかない。信じたもの全てに裏切られ、心には何一つ残っていないのだから。今回は、笑顔の中に童女のような純粋さを覗かせ、歌声にはドラマティックな情熱が漲るソプラノ大岩千穂が、トスカのさまざまな内面を鮮やかに歌いきってくれることだろう。
一方、カヴァラドッシの人物像も複雑なもの。父親はローマの名家の出だが、母はフランス人。だからカヴァラドッシは長らくパリで暮らしていた。劇中で彼に反発する者たちは、何かあるたび「あのフランス野郎め!」と罵ったに違いない。でも、歌姫トスカだけが偏見も持たずにこの青年画家を愛し、尽くしてきた。彼の2つのアリア、純な思いを綴った〈妙なる調和〉(第1幕)と絶望の苦しみを訴える〈星は光りぬ〉(第3幕)がどちらもひときわ率直な表現を採るのも、まさに恋人への深い愛情あればこそ。そして、大詰めでは、自分のためにトスカが人まで殺めたと聞き、カヴァラドッシの心がいっそうの深みを増す。そこで彼は、歌姫と共にユニゾンで輝かしく歌い上げる。自分は死ぬと薄々気付いていても、恋人への遺言代わりに、理想の境地を声高らかに伝えるのである。今回は、新星テノールの笛田博昭が、持ち前の雄々しく豊かな響きで、青年の強い想いを存分に歌い上げてくれるに違いない。
 そして、稀代の敵役、男爵スカルピアも知られざる過去を持つ男。実はシチリア人である彼の心には、貴族特有の「狩猟本能」と情欲の粘着質的な猛りが複雑に絡み合う。第1幕の終盤で、教会で〈テ・デウム〉を唱える人々をよそに、平然と欲望のたけを口にする彼だが、第2幕では歌姫の弱々しい手で敢え無く落命する。それは、神がこの男に下した鉄槌でもあるのだろう。今回は、ヴェテランのバリトン直野資が、この警視総監の酷く冷たい眼差しと暗い情欲がたぎる心を余裕たっぷりに表現してくれるはず。そして、彼の部下スポレッタ役に、同じくヴェテランのテノール松浦健が参加するのも注目のキャスティング。上司の命に忠実でありながら、人間らしさを時折り垣間見せるこの役柄が、彼の緻密な歌いまわしでより厚い存在感を得るものと、今から楽しみにしている。   岸 純信(オペラ研究家)


この公演に関する情報は以下をご覧ください。
http://www.n-genkika.co.jp/tosca.pdf
posted by chiho at 17:26| 公演情報

『地球を元気にする人々』に大岩千穂が選ばれました

地球を元気にする人々
『視線の先にあるもの』薄井大還ポートレート作品展
アウンサン・スーチー、ネルソン・マンデラ、マザー・テレサなど世界各国の要人、アーティスト、冒険家、ノーベル賞受賞者のポートレイトを撮り続ける薄井大還氏の写真展『地球を元気にする人々』に大岩千穂の近況ポートレイトが展示されています。
写真展のホームページで、薄井氏は、『ポートレイトは被写体と直面し、魂の動きを記録する芸術だと思う。被写体の魂が強い光を発する時こそ、私の求めるシャッターチャンスだ。純粋な魂ほど、より強い光を発し、写真に定着させる魅力と責任を感ずる。この魅力ある魂の存在は、己を犠牲にしてでも他者の幸せを願い行動する。純粋な心の中に存在し、きびしい戦いの最中に魂が信念の力強い光を発するのだと思う。その「きびしい戦いの最中の貴重な魂の光」を求めて遍歴するのが、私のポートレイト写真群です。』と語られています。
数々の著名人に混じって、大岩千穂の次回公演の『トスカ』に向けた魂の光をご覧ください。
以下、写真展の概要です。

写真展開催日;9月10日(火)〜10月6日(日)月曜日休館
JCIIフォトサロン;千代田区一番町25 JCIIビル 1F
1部;ノーベル平和賞受賞者や東西の冷戦の終焉など、世界平和に貢献された方々
2部;世界を舞台に活躍されている日本人
3部;パリ、ニューヨークに日本のファッションを認めさせた開拓者

写真展の詳細、会場については以下をご覧ください。
http://www.jcii-cameramuseum.jp/photosalon/photo-exhibition/2013/20130910.html
posted by chiho at 16:23| メディア掲載情報